Perspective

アスベスト訴訟の判決と日本における今後の影響

July 17, 2016| Von Shinichi Kitazawa | P/C General Industry | Japanese | English

Region: Japan

2016年1月29日、京都地方裁判所がアスベスト含有建材のメーカー9社に対し、石綿症または肺がんによって死亡、あるいは被害をこうむった23人の作業従事者とその家族に総計約1億1200万円を支払うよう命じた1

同裁判所は、これらの企業が1972年、1974年、2002年の一連の政府規制に反して、適切な警告を表示することなく建材を販売したとの主張を認めた2

原告は、これらの作業従事者が長年にわたって無数の企業によって製造されたアスベストにさらされてきたであろうという困難に直面していた。彼らは、疾病の原因と、潜在的責任者の間での責任の分担を明確にすることはできなかった。

しかしながら同裁判所は、以下の2つの条件を満たす場合に限り、作業従事者の疾病と、該当する時期に市場のシェアを10%以上占めていた企業によって製造のエクスポージャーとの因果関係は相当と考えられるとした。

(1) 同企業は、原告が建設作業員として実際に雇用されていた同時期にこれらの製品を販売していた。

(2) 同企業は、原告が建設作業員として実際に雇用されていた地域と同じ地域で、これらの製品を販売していた。

裁判所は、どの企業の製品が実際に原告の疾病を引き起こしたのかを証明することはできないという被告側の異議を却下した3

しかしながら日本の地方裁判所の間では、メーカーは責任を問われるのかという問題に関してはっきりと意見が分かれているように思われる。京都での判決の前に、東京、福岡、大阪の地方裁判所は健康被害の責任を国に負わせたが、メーカーの責任を否定した。横浜地方裁判所は、国と企業の両方の責任を否定した。

日本では一地方裁判所が法的な前例をつくることができるのだろうか? 私にはまだ定かではない。一般的には、法的前例をつくるのは、より上位の裁判所(高等裁判所と最高裁判所)である。しかしながら私は、京都地方裁判所がマーケットシェアに基づく賠償責任理論を受け入れたという事実は、法的環境が保守的かつ温和である日本においてパラダイムシフトを引き起こす可能性があるのではないかと考えている4

この事例はアスベストに関するものであるが、法的観点からみると、私たち(作業従事者であろうと消費者であろと)を取り巻く多数の化学製品の将来に関する影響をもたらすと考えられる。あるものは既に有毒な化学製品として知られており、あるものは有毒な化学製品であると疑われている。

現在では10万種の化学製品が製造されていると言われているが、毒性について分かっているのは約3000種に過ぎない。大多数の化学製品の毒性についてはほんの少ししか理解していないのである。さらに悪いことに、複数の化学製品の相互作用によって製造される化学製品はこの10万種の化学製品リストには入っておらず、それら複合物の毒性に関する私たちの知識は限られている。

今後、科学の進歩に伴い、化学製品の毒性、そして化学製品と人間の健康への危険の因果関係がますます明らかになるであろう。

京都地方裁判所が命じた損害賠償金額の総額は、米国などの国々において裁判所が命ずるであろう賠償金額と比べて少額であるかもしれないが、この訴訟は日本のカジュアルティアンダーライターが、毒性の疑いのある多数の化学製品の将来について法的文脈の中で考え始めなければならないきっかけとなるであろう。

法的環境における変化は時には緩慢で、しばしば繊細なものではあるが、こうした変化は時と共に、カジュアルティアンダーライターがリスクをどのように捉えるかに関して影響を与える。毒性の疑いのある多数の化学製品の科学的研究の発展をモニターし続けることはカジュアルティーアンダーライターにとって試練であるが、私たちはこれを怠ってはいけない。

巻末注:

1. 原告団は国に対しても訴訟を起こしたが、裁判所は、規制上の観点から国が責任を負うと判断された対象者に対し約1億400万円支払うよう国に命じた。
2. 国はアスベストに関する一連の規制を、アスベストの使用法に基づいて導入した。
3. これらの企業は全て、2016年2月2日までに大阪高等裁判所に控訴した。
4. 京都地方裁判所の判決は、マーケットシェア賠償責任理論が用いられた初めての判決である。実は、東京高等裁判所で2007年、ある和解がなされている。当時存在していたトラックメーカー全7社が、ディーゼルトラックからの排気ガスによって引き起こされたとされる呼吸器疾患を患う原告を対象とした33億円 の基金に共同で資金を出すことを原告と和解に応じている。この訴訟は、全てのトラックメーカーが責任を負担したという観点で、マーケットシェア賠償責任理 論の適用ではないと見なされている。

出典:

  • 日本経済新聞(2016年1月30日朝刊)
  • 朝日新聞(2016年1月30日朝刊;2016年2月4日朝刊)
  • The Japan Times(2016年2月5日)

 

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